アルコール依存症
アルコールという薬物
アルコールは薬物です
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アルコール(エチルアルコール)は、人類との付き合いが極めて長く、嗜好品のように捉えられがちですが、実際には脳の機能に作用する薬物=ドラッグの一種と考えるべきです。
アルコールの脳の機能に対する作用は「抑制」です。はじめは、思考や自制心などをつかさどる高次の脳機能が抑制されるため、感情的になったり、よくしゃべったりするようにみえます。さらにアルコールの量が増えると運動機能や平衡感覚に影響が出るようになり、もっと量が増えると、意識がなくなり昏睡状態になり、最終的には呼吸中枢が麻痺して死に至ることもあります。このような作用は、アルコールが脳に作用して引き起こすものです。
アルコールの吸収と分解
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アルコールの20%は胃で、80%は小腸で吸収され、そのほとんどが肝臓で分解されます。まずアルコールがアセトアルデヒドに変化します。アセトアルデヒドは、二日酔いの原因となり、毒性の強い物質です。このアセトアルデヒドが、さらに酢酸、次に水と二酸化炭素に分解されます。この分解のスピードは人によって異なりますが、これはアセトアルデヒドを分解する酵素の差によるものです。この酵素の働きは遺伝子によって決まっています。アルコールをあまり飲めない人は、少量のアルコールでも急性アルコール中毒に注意が必要です。
アルコールは、飲んでから吸収されるまでに20~30分かかります。一気飲みが危険なのは、この時間差のため、まだ酔っていないと思って飲むうちに急速に血中のアルコール濃度が上がり、突然深い酔いに移行するからです。
飲酒を繰り返すことでだんだんと「お酒に強くなる」というタイプの人もいます。このような人は、飲酒によりアセトアルデヒドの分解酵素が少しずつ増えてくるのです。
節度ある適度な飲酒
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「健康日本21」で節度ある適度な飲酒とされるのは、男性の場合、アルコール量として1日約20g(ビールでは400〜500ml、日本酒では1合弱、ウィスキーやブランデーではダブル1杯程度、焼酎では70~80ml、ワインで1杯半程度です)以下、女性ではさらに少なめにするべきとされています。週に2日は休肝日(アルコールを飲まない日)を作るべきであるという研究もあります。
飲酒習慣のない人は、無理に飲酒をする必要はありません。飲酒にはアルコール依存症のリスクがあります。アルコール依存症になると、基本的に断酒する以外に回復の方法はありません。
アルコールの耐性、依存性
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アルコールには、いくつかの特徴的な性質があります。
ひとつは「耐性」です。飲酒を続けると、同じ酔いを得るために必要なアルコールの量が増えてきます。たとえば、はじめはコップ1杯の寝酒で寝付けたのに、しばらく続けていると2杯飲まないと寝付けなくなるということが起こります。
また、アルコールは、依存性のある薬物です。依存性とは「癖になりそれに頼らずにやっていけなくなる」という性質です。依存症になると、いろいろと理由を見つけて飲酒します。つらいことがあったから、楽しいことがあったから、腹が立ったから、うれしいから、仕事が忙しかったから、今日は暇だから・・・。理由は後からついてくるのかもしれません。量のコントロールも難しくなります。さらに、アルコールを飲まずにいると離脱症状(≒禁断症状。手の震えやイライラ、不眠、興奮、幻覚等)が出現するようになり、この症状を抑えるために飲酒するようになります。
アルコール依存症
アルコール依存症
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「アルコール依存症」というと、飲酒によっていろいろと迷惑な行動をする人といったイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、アルコール依存症の重要なポイントは、飲酒行動をコントロールできなくなるということです。必ずしも酔ったときに迷惑な行動をすることではありません。静かに飲みながら次第に量のコントロールができなくなり、体をこわしたり、社会的に孤立したりしているというタイプの方も多くいます。
アルコール依存症の診断
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日本では、アルコール依存症者は80万人(ICD-10にもとづく診断)、重篤問題飲酒者は440万人(KASTにもとづく厚生労働省研究班調査、2004)いると推定されています。成人男性では7.1%、成人女性では1.3%が重篤問題飲酒者と推定されています。これに対して、実際にアルコール依存症として入院・通院している患者数は2万人程度(患者調査、2004)ですから、多くのアルコール依存症者は治療を受けずにすごしているものと思われます。
CAGE 以下の4項目のうち2つ以上が当てはまればアルコール依存症と判定する。
- 自分の酒量を減らさなければならないと感じたことがありますか。
- 誰か他の人から自分の飲酒について批判されて困ったことがありますか。
- 自分の飲酒についてよくないと感じたり、罪悪感を持ったことがありますか。
- 神経を落ち着かせるため、または二日酔いを治すために朝まっさきに飲酒したことがありますか。
アルコール依存症の経過・症状
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アルコール依存症になるかどうかは、体質的な問題も関係しますが、基本的には飲酒という生活習慣があって起きる生活習慣病です。以下のような経過で進行します。
- 機会的飲酒(時々誘われて飲む)
- 飲酒習慣の形成(毎日晩酌する、仕事帰りに必ず飲む)
- 耐性形成(酒量がだんだんと増える)
- ブラックアウト(酔って記憶を失くす)
- 精神依存(飲まずにいようと思っても飲んでしまう、飲むべきでない時間や場所で飲んでしまう、常に一定量のアルコールを確保しようとする、身体に飲酒による害が現れても飲む等)
- 身体依存(離脱症状の出現、飲酒しないと手が震える、眠れない、冷汗をかく・・・、このような不快な症状は飲酒すると消える)
- 病的な飲酒行動の出現(「連続飲酒発作」など)
- 慢性中毒・死亡など末期状態(平均寿命は50歳代前半)
アルコール依存症は、飲み始めてから10年~20年ほどの間に徐々に進行します。できるだけ早期から治療するほうが、体へのダメージも少なく、回復後の状態も良くなります。
依存症の人は、たいてい「やめようとしてやめられなかった」「何回もやめたけどやめ続けなかった」経験を持っています。「飲み続けているわけではないから依存症ではない」というわけではありません。
アルコールと社会問題
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アルコールに関する問題は、家族を巻き込むだけでなく、社会的にも様々な問題をひき起こします。たとえば、飲酒運転、駅のホームや階段からの転落事故、急性アルコール中毒、飲酒しての暴力、虐待やセクシャル・ハラスメント、未成年の飲酒など。
そのほかにも、アルコール依存症になると仕事ができなくなったり、身体的な治療のための費用がかさんで家計を圧迫したりという問題もあります。また、家族関係の問題が子どもたちの世代に影響するということも考えられます。
アルコールに関連した身体疾患
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アルコールは体にもさまざまな障害をひき起こします。
アルコール依存症の治療と回復
アルコール依存症の治療と回復
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